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  • 執筆者の写真ふじおかんたろう

むかしの春のにおい


高田渡の「生活の柄」を口ずさみながら、この歌を歌うならあいつはどう歌うのだろうと、早稲田の演劇研究会時代の同期Kのことを思い出す。

僕の同期は6人。比較的人数は少なかったが、その誰もがどこかしら狂っていた。

種類は違うがそれぞれに頭がおかしかった。

新人の募集期間は2ヶ月ぐらいあったか。Kは一番最後に仲間に加わった。

当時、桜も散った春半ば、劇研でやっていた公演の場外誘導を僕がやっていると、Kはふらふらとあらわれた。

「劇研の新人稽古ってやってるんすか〜?」

みたいなことを聞いてきた。

僕はこの公演が終わるまでは新人稽古はないことなど説明しながら、タバコを吸う彼と場外誘導の仕事をほったらかしてしばらく話し込んだ。

会ってすぐに、こいつと仲良くなりたいと思った。

こんなやつに会ってみたいと思っていた。

猿みたいにニコニコしていて、ほっそい体に、裸だと恥ずかしいからとりあえず着ているといったようなぐあいの、てろんとした服。

いつも自由の風が吹いているような男だった。

僕より一個年上だけれど、経験の種類が僕とは全然違った。

全国をヒッチハイクで1年か2年ぶらぶらして、突然やったこともない「演劇」の門を叩きにやってきたのだ。

仲良くなりたいと思った人とはすぐに簡単に仲良くなってしまうようなやつだった。特に年上にまあ好かれる。

旅人気質のアナログ人間に見えるのに、誰よりもはやくIphoneを買っていた。Iphoneを買ってからはずっと携帯ゲームで遊んでいた。

独特の人心掌握術があるというか、不思議な色気というかカリスマ性があったように思う。思えば僕はそいつの影響でタバコを吸いだしたのだ。

新人はおおっぴらにタバコを吸ってはいけないという暗黙のルールがサークルにあって、ふたりで劇研アトリエ周辺のいろいろな場所でタバコを吸っていた気がする。何を話したのかさっぱり覚えていないが、その景色と「自由な」においは覚えている。

こんなに仕上がっている同世代をはじめてみたような気持ちもあった。

猿のようだが、誰よりも大人っだった。さんざん遊んできて、20代前半にはもうSEXに飽きているような感じもあった。

人間の種類が僕とはまるで違うが、僕はずっと憧れていたのだと思う。

手持ち花火で後輩の女の子の服に穴を開けちゃうような男だった。

音楽はスカやレゲエが好きなやつだった。

ある時、なにかの飲み会で、Kのとなりに僕がいて、ペテカンの本田誠人さんに、

「君たちはすごくいいコンビだ」言われたことがある。

種類の違う生き物同士でなにかを補完しあえていたのだとしたら嬉しい。

僕は僕であいつになにか与えるものがあったのだとしたら嬉しい。

Kはもう芝居をしていない。

あいつが東京を離れてから、もう連絡もとれない。おそらく同期の誰も連絡をとれない。

一度、Kが作・演出、僕が主演で一緒に公演を打った。「ゴミ屋敷」と「バンド」を茶化すようなお芝居だった。もう一度公演を打とうとしていたが、それは実現せずに終わった。それは「恐竜」を研究する人のお芝居だった。

もう会わなくなって5年ぐらいたったのだろうか。

なぜ彼のことを書きたくなったのか。

ただ、なんとなく思い出して、なんとなく書きたくなった。

春のにおいがするようなやつだった。

あるいは出会ったのが春だったからか。

においに意味とかはない。

だからこの記事にも、意味とかはない。


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